一碗陽春麵

一碗陽春麵

《一碗陽春麵》又譯為《一碗清湯蕎麥麵》,是一個感人至深的故事,在日本企業內部和政府部門也廣為流傳,不論是首相、總統、議員、著名企業家,還是企業員工、普通百姓,無不為這個故事深深感染,因為在它樸實的語言下,蘊藏著觸動靈魂的人格力量和人性光輝。作者栗良平通過收集日本民間故事而創作的感人故事《一碗陽春麵》用簡單地故事情節、細緻的人物對話、質樸的人物性格描寫,向讀者展示了一種在困境中仍然充滿希望,堅強面對生活的不幸、陌生人之間的關愛和尊重的美好品質。這種善良、勇敢、奮發和友愛的人性美在母子三人身上以及麵館夫婦身上顯露無疑。

基本信息

作者簡介

一碗陽春麵一碗陽春麵
栗良平,日本作家。本名伊藤貢,北海道砂州市人。
在綜合醫院任職十年。高中時代曾翻譯安徒生童話而引起對口述童話的創作興趣。他利用業餘時間,收集四百多篇民間故事,以各地方言,親自巡迴講述,並主辦“栗子會”,以及“大人對小孩說故事”為主題,展開全國性的說故事活動。
主要發表的作品有《紡織公主》、《又聽到二號汽笛》、《穿越戰國時代的天空》等多種。他以《一碗陽春麵》而成為兒童類暢銷作家。
《一碗陽春麵》這篇小說體現了親情的美,人性的美:通過母子三人在困難的處境中堅強奮鬥、互相激勵的故事,動人的表現了團結、向上、不屈、奮爭的主題。

中文全文

一碗陽春麵一碗陽春麵
對於麵館來說,最忙的時候,要算是大年夜了。北海亭面館的這一天,也是從早就忙得不亦樂乎。
平時直到深夜十二點還很熱鬧的大街,大年夜晚上一過十點,就很寧靜了。北海亭麵館的顧客,此時也像是突然都失蹤了似的。
就在最後一位顧客出了門,店主要說關門打烊的時候,店門被咯吱咯吱地拉開了。一個女人帶著兩個孩子走了進來。六歲和十歲左右的兩個男孩子,一個身嶄新的運動服。女人卻穿著不合時令的斜格子的短大衣。
“歡迎光臨!”老闆娘上前去招呼。
“呃……陽春麵……一碗……可以嗎?”女人怯生生地問。 那兩個小男孩躲在媽媽的身後,也怯生生地望著老闆娘。
“行啊,請,請這邊坐,”老闆娘說著,領他們母子三人坐到靠近暖氣的二號桌,一邊向櫃檯裡面喊著,“陽春麵一碗!”
聽到喊聲的老闆,抬頭瞥了他們三人一眼,應聲答道:“好咧!陽春麵一碗——”
案板上早就準備好的,堆成一座座小山似的麵條,一堆是一人份。老闆抓了一堆面,繼而又加了半堆,一起放進鍋里。老闆娘立刻領悟到,這是丈夫特意多給這母子三人的。
熱騰騰香噴噴的陽春麵放到桌上,母子三人立即圍著這碗面,頭碰頭地吃了起來。
“真好吃啊!”哥哥說。
“媽媽也吃呀!”弟弟挾了一筷面,送到媽媽口中。
不一會,面吃完了,付了150元錢。
“承蒙款待,”母子三人一起點頭謝過,出了店門。
“謝謝,祝你們過個好年!”老闆和老闆娘應聲答道。
過了新年的北海亭麵館,每天照樣忙忙碌碌。一年很快過去了,轉眼又是大年夜。
和以前的大年夜一樣,忙得不亦樂乎的這一天就要結束了。過了晚上十點,正想關門打烊,店門又被拉開了,一個女人帶著兩個男孩走了進來。
老闆娘看到那女人身上的那件不合時令的斜格子短大衣,就想起去年大年夜那三位最後的顧客。
“……呃……陽春麵一碗……可以嗎?”
“請,請裡邊坐,”老闆娘將他們帶到去年的那張二號桌,“陽春麵一碗——” “好咧,陽春麵一碗——”老闆應聲回答著,並將已經熄滅的爐火重新點燃起來。
“喂,孩子他爹,給他們下三碗,好嗎?”
老闆娘在老闆耳邊輕聲說道。
“不行,如果這樣的話,他們也許會尷尬的。”
老闆說著,抓了一人半份的面下了鍋。
桌上放著一碗陽春麵,母子三人邊吃邊談著,櫃檯里的老闆和老闆娘也能聽到他們的聲音。
“真好吃……”
“今年又能吃到北海亭的陽春麵了。”
“明年還能來吃就好了……”
吃完後,付了150元錢。老闆娘看著他們的背影,“謝謝,祝你們過個好年!”
這一天,被這句說過幾十遍乃至幾百遍的祝福送走了。
隨著北海亭麵館的生意興隆,又迎來了第三年的大年夜。
從九點半開始,老闆和老闆娘雖然誰都沒說什麼,但都顯得有點心神不 定。十點剛過,僱工們下班走了,老闆和老闆娘立刻把牆上掛著的各種面的價格牌一一翻了過來,趕緊寫好“陽春麵150元”,其實,從今年夏天起,隨著物價的上漲,陽春麵的價格已經是200元一碗了。
二號桌上,早在30分鐘以前,老闆娘就已經擺好了“預約席”的牌子。
到了十點半,店裡已經沒有客人了,但老闆和老闆娘還在等候著那母子三人的到來。 他們來了。哥哥穿著中學生的制服,弟弟穿著去年哥哥穿的那件略有些大的舊衣服,兄弟二人都長大了,有點認不出來了。母親還是穿著那件不合時令的有些褪色的短大衣。
“歡迎光臨,”老闆娘笑著迎上前去。
“……呃……陽春麵兩碗……可以嗎?”母親怯生生地問。
“行,請,請裡邊坐!”
老闆娘把他們領到二號桌,一邊若無其事的將桌上那塊預約牌藏了起來,對櫃檯喊道:
“陽春麵兩碗!”
“好咧,陽春麵兩碗——”
老闆應聲答道,把三碗面的份量放進鍋里。
母子三人吃著兩碗陽春麵,說著,笑著。
“大兒,淳兒,今天,我做母親的想要向你們道謝。” “道謝?向我們?……為什麼?”
“實在是,因為你們的父親死於交通事故,生前欠下了八個人的錢。我把撫恤金全部還了債,還不夠的部分,就每月五萬元分期償還。”
“這些我們都知道呀。”
老闆和老闆娘在櫃檯里,一動不動地凝神聽著。
“剩下的債,到明年三月還清,可實際上,今天就已經全部還清了。”
“啊,這是真的嗎,媽媽?”
“是真的。大兒每天送報支持我,淳兒每天買菜燒飯幫我忙,所以我能夠安心工作。因為我努力工作,得到了公司的特別津貼,所以現在能夠全部還清債款。”
“好啊!媽媽,哥哥,從現在起,每天燒飯的事還是我包了!” “我也繼續送報。弟弟,我們一起努力吧!”
“謝謝,真是謝謝”
“我和弟弟也有一件事瞞著媽媽,今天可以說了。這是在十一月的星期天,我到弟弟學校去參加家長會。這時,弟弟已經藏了一封老師給媽媽的信……弟弟寫的作文如果被選為北海道的代表,就能參加僵的作文比賽。正因為這樣,家長會的那天,老師要弟弟自己朗讀這篇作文。老師的信如果給媽媽看了,媽媽一定會向公司請假,去聽弟弟朗讀作文,於是,弟弟就沒有把這封信交給媽媽。這事,我還是從弟弟的朋友那裡聽來的。所以,家長會那天,是我去了。” “喔,原來是這樣……那後來呢?”
“老師出的作文題目是,你‘將來想成為怎樣的人’,全體學生都寫了,弟弟的題目是《一碗陽春麵》,一聽這題目,我就知道是寫的北海亭麵館的事。弟弟這傢伙,怎么把這種難為情的事寫出來,當時我這么想著。”
“作文寫的是,父親死於交通事故,留下一大筆債。母親每天從早到晚拚命工作,我去送早報和晚報……弟弟全寫了出來。接著又寫,十二月三十一日的晚上,母子三人吃一碗陽春麵,非常好吃……三個人只買一碗陽春麵,麵館的叔叔阿姨還是很熱情地接待我們,謝謝我們,還祝福我們過個好年。聽到這聲音,弟弟的心中不由地喊著:不能失敗,要努力,要好好活著!因此,弟弟長大成人後,想開一家日本第一的麵館,也要對顧客說,努力吧,祝你幸福,謝謝。弟弟大聲地朗讀著作文……” 此刻,櫃檯里豎著耳朵,全神貫注聽母子三人說話的老闆和老闆娘不見。在櫃檯後面,只見他們兩人面對面地蹲著,一條毛巾,各執一端,正在擦著奪眶而出的眼淚。
“作文朗讀完後,老師說,‘今天淳君的哥哥代替他母親來參加我們的家長會,現在我們請他來說幾句話……’”
“這時哥哥為什麼”弟弟疑惑地望著哥哥。
“因為突然被叫上去說話,一開始,我什麼準備也說不出……諸君一直和我弟弟很要好,在此,我謝謝大家。弟弟每天做晚飯,放棄了俱樂部的活動,中途回家, 我做哥哥的,感到很難為情。剛才,弟弟的《一碗陽春麵》剛開始朗讀的時候,我感到很丟臉,但是,當我看到弟弟激動地大聲朗讀時,我心裡更感到羞愧,這時我 想,決不能忘記母親買一碗陽春麵的勇氣,兄弟們,齊心合力,為保護我們的母親而努力吧!從今以後,請大家更好地和我弟弟做朋友。我就說這些……” 母子三人,靜靜地,互相握著手,良久。繼而又歡快地笑了起來。 和去年相比,像是完全變了模樣。
作為年夜飯的陽春麵吃完了,付了150元。
“承蒙款待,”母子三人深深地低頭道謝,走出了店門。
“謝謝,祝你們過個好年!”
老闆和老闆娘大聲向他們祝福,目送他們遠去。
又是一年的大年夜降臨了。北海亭麵館里,晚上九點一過,二號桌上又擺上了預約席的牌子,等待著母子三人的到來。可是,這一天始終沒有看到他們三人的身影。
一年,又是一年,二號桌始終默默地等待著。可母子三人還是沒有出現。
北海亭麵館因為生意越來越興隆,店內重又進行了裝修。桌子、椅子都換了新的,可二號桌卻依然如故,老闆夫婦不但沒感到不協調,反而把二號桌安放在店堂的中央。 “為什麼把這張舊桌子放在店堂中央?”有的顧客感到奇怪。
於是,老闆夫婦就把“一碗陽春麵”的故事告訴他們。並說,看到這張桌子,就是對自己的激勵。而且,說不定哪天那母子三人還會來,這個時候,還想用這張桌子來迎接他們。
就這樣,關於二號桌的故事,使二號桌成了幸福的桌子。顧客們到處傳頌著,有人特意從老遠的地方趕來,有女學生,也有年輕的情侶,都要到二號桌吃一碗陽春麵。二號桌也因此名聲大振。
時光流逝,年復一年。這一年的大年夜又來到了。
這時,北海亭麵館已經是這條街商會的主要成員,大年夜這天,親如家人的朋友、近鄰、同行,結束了一天的工作後,都來到北海亭,在北海亭吃了過年面,聽著 除夕夜的鐘聲,然後親朋好友聚集起來,一起到附近神社去燒香磕頭,以求神明保佑。這種情形,已經有五六年了。 今年的大年夜當然也不例外。九點半一過,以魚店老闆夫婦捧著裝滿生魚片的大盤子進來為信號,平時的街坊好友三十多人,也都帶著酒菜,陸陸續續地會集到北海 亭。店裡的氣氛一下子熱鬧起來。
知道二號桌由來的朋友們,嘴裡沒說什麼,可心裡都在想著,今年二號桌也許又要空等了吧?那塊預約席的牌子,早已悄悄地放在了二號桌上。
狹窄的座席之間,客人們一點一點地移動著身子坐下,有人還招呼著遲到的朋友。吃著面,喝著酒,互相挾著菜。有人到櫃檯里去幫忙,有人隨意打開冰櫃拿東西。什麼廉價出售的生意啦,海水浴的艷聞趣事啦,什麼添了孫子的事啦。十點半時,北海亭里的熱鬧氣氛達到了頂點。 就在這時,店門被咯吱咯吱地拉開了。人們都向門口望去,屋子裡突然靜了下來。
兩位西裝筆挺、手臂上搭著大衣的青年走了進來。這時,大夥才都鬆了口氣,隨著輕輕的嘆息聲,店裡又恢復了剛才的熱鬧。
“真不湊巧,店裡已經坐滿了,”老闆娘面帶歉意的說。
就在拒絕兩位青年的時候,一個身穿和服的女人,深深低著頭走了進來,站在兩位青年的中間。 店裡的人們,一下子都屏住了呼吸,耳朵也都豎了起來。
“呃……三碗陽春麵,可以嗎?”穿和服的女人平靜地說。
聽到這話,老闆娘的臉色一下子變了。十幾年前留在腦海中的母子三人的印象,和眼前這三人的形象重疊起來了。
老闆娘指著三位來客,目光和正在櫃檯里忙碌的丈夫的目光撞到一處。
“啊,啊,……孩子他爹……”
面對著不知所措的老闆娘,青年中的一位開口了。
“我們就是十四年前的大年夜,母子三人共吃一碗陽春麵的顧客。那時,就是這一碗陽春麵的鼓勵,使我們三人同心合力,度過了艱難的歲月。這以後,我們搬到母 親的親家滋賀縣去了。” “我今年通過了醫生的國家考試,現在京都的大學醫院當實習醫生。明年四月,我將到札幌的綜合醫院工作。還沒有開麵館的弟弟,現在京都的銀行里工作。我和弟 弟商量,計畫著生平第一次的奢侈行動。就這樣,今天我們母子三人,特意到札幌的北海亭來拜訪,想要麻煩你們煮三碗陽春麵。”
邊聽邊點頭的老闆夫婦,淚珠一串串地掉下來。
坐在靠近門口的蔬菜店老闆,嘴裡含著一口面聽著,直到這時,才把面咽了下去,站起身來。
“喂喂!老闆娘,你呆站在那裡乾什麼?這十幾年的每一個大年夜,你不是都為等待他們的到來做好了準備嗎?快,快請他們入座,快!” 被蔬菜店老闆用肩頭一撞,老闆娘才清醒過來。
“歡……歡迎,請,請坐……孩子他爹,二號桌陽春麵三碗——”
“好咧——陽春麵三碗——”淚流滿面的丈夫差點應不出聲來。
店裡,突然爆發出一陣不約而同的歡呼聲和鼓掌聲。
店外,剛才還在紛紛揚揚飄著的雪花,此刻也停了。皚皚白雪映著明淨的窗子,那寫著“北海亭”的布帘子,在正月的清風中,搖著,飄著……

日文原文

一杯のかけそば

この物語は、今から15年ほど前の12月31日、札幌の街にあるそば屋「北海亭」での出來事から始まる。
そば屋にとって一番のかき入れ時は大晦日である。
北海亭もこの日ばかりは朝からてんてこ舞の忙しさだった。いつもは夜の12時過ぎまで賑やかな表通りだが、夕方になるにつれ家路につく人々の足も速くなる。10時を回ると北海亭の客足もぱったりと止まる。
頃合いを見計らって、人はいいのだが無愛想な主人に代わって、常連客から女將さんと呼ばれているその妻は、忙しかった1日をねぎらう、大入り袋と土產のそばを持たせて、パートタイムの従業員を帰した。
最後の客が店を出たところで、そろそろ表の暖簾を下げようかと話をしていた時、入口の戸がガラガラガラと力無く開いて、2人の子どもを連れた女性が入ってきた。6歳と10歳くらいの男の子は真新しい揃いのトレーニングウェア姿で、女性は季節はずれのチェックの半コートを著ていた。
いらっしゃいませ!」
と迎える女將に、その女性はおずおずと言った。
「あのー……かけそば……1人前なのですが……よろしいでしょうか」
後ろでは、2人の子ども達が心配顏で見上げている。
「えっ……えぇどうぞ。どうぞこちらへ」
暖房に近い2番テーブルへ案內しながら、カウンターの奧に向かって、
「かけ1丁!」
と聲をかける。それを受けた主人は、チラリと3人連れに目をやりながら、
「あいよっ! かけ1丁!」
とこたえ、玉そば1個と、さらに半個を加えてゆでる。
玉そば1個で1人前の量である。客と妻に悟られぬサービスで、大盛りの分量のそばがゆであがる。
テーブルに出された1杯のかけそばを囲んで、額を寄せあって食べている3人の話し聲がカウンターの中までかすかに屆く。
「おいしいね」
と兄。
「お母さんもお食べよ」
と1本のそばをつまんで母親の口に持っていく弟。
やがて食べ終え、150円の代金を支い、「ごちそうさまでした」と頭を下げて出ていく母子3人に、
「ありがとうございました! どうかよいお年を!」
と聲を合わせる主人と女將。
新しい年を迎えた北海亭は、相変わらずの忙しい毎日の中で1年が過ぎ、再び12月31日がやってきた。
前年以上の貓の手も借りたいような1日が終わり、10時を過ぎたところで、店を閉めようとしたとき、ガラガラガラと戸が開いて、2人の男の子を連れた女性が入ってきた。
女將は女性の著ているチェックの半コートを見て、1年前の大晦日、最後の客を思いだした。
「あのー……かけそば……1人前なのですが……よろしいでしょうか」
「どうぞどうぞ。こちらへ」
女將は、昨年と同じ2番テーブルへ案內しながら、
「かけ1丁!」
と大きな聲をかける。
「あいよっ! かけ1丁」
と主人はこたえながら、消したばかりのコンロに火を入れる。
「ねえお前さん、サービスということで3人前、出して上げようよ」
そっと耳打ちする女將に、
「だめだだめだ、そんな事したら、かえって気をつかうべ」
と言いながら玉そば1つ半をゆで上げる夫を見て、
「お前さん、頂面してるけどいいとこあるねえ」
とほほ笑む妻に対し、相変わらずだまって盛りつけをする主人である。
テーブルの上の、1杯のそばを囲んだ母子3人の會話が、カウンターの中と外の2人に聞こえる。
「……おいしいね……」
「今年も北海亭のおそば食べれたね」
「來年も食べれるといいね……」
食べ終えて、150円を支払い、出ていく3人の後ろ姿に
「ありがとうございました! どうかよいお年を!」
その日、何十回とくり返した言葉で送り出した。
商売繁盛のうちに迎えたその翌年の大晦日の夜、北海亭の主人と女將は、たがいに口にこそ出さないが、九時半を過ぎた頃より、そわそわと落ち著かない。
10時を回ったところで従業員を帰した主人は、壁に下げてあるメニュー札を次々と裏返した。今年の夏に値上げして「かけそば200円」と書かれていたメニュー札が、150円に早変わりしていた。
2番テーブルの上には、すでに30分も前から「予約席」の札が女將の手で置かれていた。
10時半になって、店內の客足がとぎれるのを待っていたかのように、母と子の3人連れが入ってきた。
兄は中學生の制服、弟は去年兄が著ていた大きめのジャンパーを著ていた。2人とも見違えるほどに成長していたが、母親は色あせたあのチェックの半コート姿のままだった。
「いらっしゃいませ!」
と笑顏で迎える女將に、母親はおずおずと言う。
「あのー……かけそば……2人前なのですが……よろしいでしょうか」
「えっ……どうぞどうぞ。さぁこちらへ」
と2番テーブルへ案內しながら、そこにあった「予約席」の札を何気なく隠し、カウンターに向かって
「かけ2丁!」
それを受けて
「あいよっ! かけ2丁!」
とこたえた主人は、玉そば3個を湯の中にほうり込んだ。
2杯のかけそばを互いに食べあう母子3人の明るい笑い聲が聞こえ、話も弾んでいるのがわかる。カウンターの中で思わず目と目を見交わしてほほ笑む女將と、例の仏頂面のまま「うん、うん」とうなずく主人である。
「お兄ちゃん、淳ちゃん……今日は2人に、お母さんからお禮が言いたいの」
「……お禮って……どうしたの」
「実はね、死んだお父さんが起こした事故で、8人もの人にけがをさせ迷惑をかけてしまったんだけど……保険などでも支払いできなかった分を、毎月5萬円ずつ払い続けていたの」
「うん、知っていたよ」
女將と主人は身動きしないで、じっと聞いている。
「支払いは年明けの3月までになっていたけど、実は今日、ぜんぶ支払いを済ますことができたの」
「えっ! ほんとう、お母さん!」
「ええ、ほんとうよ。お兄ちゃんは新聞配達をしてがんばってくれてるし、淳ちゃんがお買い物や夕飯のしたくを毎日してくれたおかげで、お母さん安心して働くことができたの。よくがんばったからって、會社から特別手當をいただいたの。それで支払いをぜんぶ終わらすことができたの」
「お母さん! お兄ちゃん! よかったね! でも、これからも、夕飯のしたくはボクがするよ」
「ボクも新聞配達、続けるよ。淳! がんばろうな!」
「ありがとう。ほんとうにありがとう」
「今だから言えるけど、淳とボク、お母さんに內緒にしていた事があるんだ。それはね……11月の日曜日、淳の授業參観の案內が、學校からあったでしょう。……あのとき、淳はもう1通、先生からの手紙をあずかってきてたんだ。淳の書いた作文が北海道の代表に選ばれて、全國コンクールに出品されることになったので、參観日に、その作文を淳に読んでもらうって。先生からの手紙をお母さんに見せれば……むりして會社を休むのわかるから、淳、それを隠したんだ。そのこと淳の友だちから聞いたものだから……ボクが參観日に行ったんだ」
「そう……そうだったの……それで」
「先生が、あなたは將來どんな人になりたいですか、という題で、全員に作文を書いてもらいましたところ、淳くんは、『一杯のかけそば』という題で書いてくれました。これからその作文を読んでもらいますって。『一杯のかけそば』って聞いただけで北海亭でのことだとわかったから……淳のヤツなんでそんな恥ずかしいことを書くんだ! と心の中で思ったんだ。
作文はね……お父さんが、交通事故で死んでしまい、たくさんの借金が殘ったこと、お母さんが、朝早くから夜遅くまで働いていること、ボクが朝刊夕刊の配達に行っていることなど……ぜんぶ読みあげたんだ。
そして12月31日の夜、3人で食べた1杯のかけそばが、とてもおいしかったこと。……3人でたった1杯しか頼まないのに、おそば屋のおじさんとおばさんは、ありがとうございました! どうかよいお年を! って大きな聲をかけてくれたこと。その聲は……負けるなよ! 頑張れよ! 生きるんだよ! って言ってるような気がしたって。それで淳は、大人になったら、お客さんに、頑張ってね! 幸せにね! って思いを込めて、ありがとうございました! と言える日本一の、おそば屋さんになります。って大きな聲で読みあげたんだよ」
カウンターの中で、聞き耳を立てていたはずの主人と女將の姿が見えない。
カウンターの奧にしゃがみ込んだ2人は、1本のタオルの端を互いに引っ張り合うようにつかんで、こらえきれず溢れ出る涙を拭っていた。
「作文を読み終わったとき、先生が、淳くんのお兄さんがお母さんにかわって來てくださってますので、ここで挨拶をしていただきましょうって……」
「まぁ、それで、お兄ちゃんどうしたの」
「突然言われたので、初めは言葉が出なかったけど……皆さん、いつも淳と仲よくしてくれてありがとう。……弟は、毎日夕飯のしたくをしています。それでクラブ活動の途中で帰るので、迷惑をかけていると思います。今、弟が『一杯のかけそば』と読み始めたとき……ぼくは恥ずかしいと思いました。……でも、胸を張って大きな聲で読みあげている弟を見ているうちに、1杯のかけそばを恥ずかしいと思う、その心のほうが恥ずかしいことだと思いました。
あの時1杯のかけそばを頼んでくれた母の勇気を、忘れてはいけないと思います。……兄弟、力を合わせ、母を守っていきます。……これからも淳と仲よくして下さい、って言ったんだ」
しんみりと、互いに手を握ったり、笑い転げるようにして肩を叩きあったり、昨年までとは、打って変わった楽しげな年越しそばを食べ終え、300円を支払い「ごちそうさまでした」と、深々と頭を下げて出て行く3人を、主人と女將は1年を締めくくる大きな聲で、
「ありがとうございました! どうかよいお年を!」
送り出した。
また1年が過ぎて――。
北海亭では、夜の9時過ぎから「予約席」の札を2番テーブルの上に置いて待ちに待ったが、あの母子3人は現れなかった。
次の年も、さらに次の年も、2番テーブルを空けて待ったが、3人は現れなかった。
北海亭は商売繁盛のなかで、店內改裝をすることになり、テーブルや椅子も新しくしたが、あの2番テーブルだけはそのまま殘した。
真新しいテーブルが並ぶなかで、1腳だけ古いテーブルが中央に置かれている。
「どうしてこれがここに」
と不思議がる客に、主人と女將は『一杯のかけそば』のことを話し、このテーブルを見ては自分たちの勵みにしている、いつの日か、あの3人のお客さんが、來てくださるかも知れない、その時、このテーブルで迎えたい、と說明していた。
その話が「幸せのテーブル」として、客から客へと伝わった。わざわざ遠くから訪ねてきて、そばを食べていく女學生がいたり、そのテーブルが、空くのを待って注文をする若いカップルがいたりで、なかなかの人気を呼んでいた。
それから更に、數年の歳月が流れた12月31日の夜のことである。北海亭には同じ町內の商店會のメンバーで家族同然のつきあいをしている仲間達がそれぞれの店じまいを終え集まってきていた。北海亭で年越しそばを食べた後、除夜の鍾の音を聞きながら仲間とその家族がそろって近くの神社へ初詣に行くのが5~6年前からの恆例となっていた。
この夜も9時半過ぎに、魚屋の夫婦が刺身を盛り合わせた大皿を両手に持って入って來たのが合図だったかのように、いつもの仲間30人余りが酒や餚を手に次々と北海亭に集まってきた。「幸せの2番テーブル」の物語の由來を知っている仲間達のこと、互いに口にこそ出さないが、おそらく今年も空いたまま新年を迎えるであろう「大晦日10時過ぎの予約席」をそっとしたまま、窮屈な小上がりの席を全員が少しずつ身體をずらせて遅れてきた仲間を招き入れていた。
海水浴のエピソード、孫が生まれた話、大売り出しの話。賑やかさが頂點に達した10時過ぎ、入口の戸がガラガラガラと開いた。幾人かの視線が入口に向けられ、全員が押し黙る。北海亭の主人と女將以外は誰も會ったことのない、あの「幸せの2番テーブル」の物語に出てくる薄手のチェックの半コートを著た若い母親と幼い二人の男の子を誰しもが想像するが、入ってきたのはスーツを著てオーバーを手にした二人の青年だった。ホッとした溜め息が漏れ、賑やかさが戻る。女將が申し訳なさそうな顏で
「あいにく、満席なものですから」
斷ろうとしたその時、和服姿の婦人が深々と頭を下げ入ってきて二人の青年の間に立った。店內にいる全ての者が息を呑んで聞き耳を立てる。
「あのー……かけそば……3人前なのですが……よろしいでしょうか」
その聲を聞いて女將の顏色が変わる。十數年の歳月を瞬時に押しのけ、あの日の若い母親と幼い二人の姿が目の前の3人と重なる。カウンターの中から目を見開いてにらみ付けている主人と今入ってきた3人の客とを互動に指さしながら
「あの……あの……、おまえさん」
と、おろおろしている女將に青年の一人が言った。
「私達は14年前の大晦日の夜、親子3人で1人前のかけそばを注文した者です。あの時、一杯のかけそばに勵まされ、3人手を取り合って生き抜くことが出來ました。その後、母の実家があります滋賀県へ越しました。私は今年、醫師の國家試験に合格しまして京都の大學病院に小児科醫の卵として勤めておりますが、年明け4月より札幌の総合病院で勤務することになりました。その病院への挨拶と父のお墓への報告を兼ね、おそば屋さんにはなりませんでしたが、京都の銀行に勤める弟と相談をしまして、今までの人生の中で最高の贅沢を計畫しました。それは大晦日に母と3人で札幌の北海亭さんを訪ね、3人前のかけそばを頼むことでした」
うなずきながら聞いていた女將と主人の目からどっと涙があふれ出る。入口に近いテーブルに陣取っていた八百屋の大將がそばを口に含んだまま聞いていたが、そのままゴクッと飲み込んで立ち上がり
「おいおい、女將さん。何してんだよお。10年間この日のために用意して待ちに待った『大晦日10時過ぎの予約席』じゃないか。ご案內だよ。ご案內」
八百屋に肩をぽんと叩かれ、気を取り直した女將は
「ようこそ、さあどうぞ。 おまえさん、2番テーブルかけ3丁!」
仏頂面を涙でぬらした主人、
「あいよっ! かけ3丁!」
期せずして上がる歓聲と拍手の店の外では、先程までちらついていた雪もやみ、新雪にはね返った窓明かりが照らしだす『北海亭』と書かれた暖簾を、ほんの一足早く吹く睦月の風が揺らしていた。

作品賞析

1.除夕夜,萬家燈火,家家戶戶桌上都是豐盛的宴席,這是這一年中吃得最好的一頓,母子三人卻在北海亭一家小小的麵店,津津有味地吮吸著同一碗陽春麵。
窮人,是社會中數量最多,處在最困難的階層。然而他們卻常常是社會變革的主導力量,為世界交換血液,奪取自由,創造財富的中堅。一碗陽春麵,我們看到一個母親堅定的背影,兩個孩子渴求的眼神,還看到麵店老闆和老闆娘的兩顆火熱的善心。
一碗陽春麵,麵店老闆娘一聲短短的祝福卻撐起了一個家庭的自尊。
父親死後留下的債,支離破碎的家族親情,卻毀滅不了一個家的夢想。
記得二戰的硝煙散去後,有這樣兩位記者評論日本,一個說:那裡滿目瘡痍,這個民族已無希望;而另一個卻發現,在滿目瘡痍的土地上,清晨依然可以聽到孩子們朗朗的早讀聲,一個國家的興旺正在於此。
一碗陽春麵也同樣可以折射這個民族的精神。
東方民族多少好一些面子,那位母親敢於帶孩子去吃一碗陽春麵,完全粉碎了面子的這張瓷臉。儘管這個民族曾經輕辱血洗過我們的土地,但當年這個小小的島國是何等的發達,亦如今日在世界上遙遙領先。
同樣好面子,他們可以駕著飛機做肉彈,可以讓滿載三千士兵的“大和號”沉入太平洋海底;同樣的好面子,我們一面叫嚷打倒日本帝國主義,而日本在中國的兵力遠遠小於在太平洋上的兵力,僅僅中國的日偽軍人數就遠遠大於日本本土的。戰爭打得不是人數,而是實力,更是精神。
一碗陽春麵,折射出的不僅是一種自尊,一顆善心,一點堅持,而是一個站立的民族,一個血與淚澆鑄下不屈的靈魂。

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